【第9回:後藤コラム】「投資と成果の見える化」で信頼を築く
DMOが安定した財源を確保できたとしても、それをどのように活用し、どのような成果を地域にもたらしたのかを示さなければ、関係者の信頼は続かない。投資と成果の関係を「見える化」することは、財源の循環を維持するための前提であり、DMOにとって不可欠な使命である。
■ 企業経営とのアナロジー
投資とリターンの関係を理解する上で、DMOを企業に置き換えて考えるとわかりやすい。企業においては、株主が資金を提供し、顧客が製品やサービスに対価を払う。投資は利益という形で回収され、株主へのリターンとして還元される。
では、DMOの場合はどうか。ここでいう「株主」にあたるのは会員であり、「顧客」にあたるのは観光客や地域住民である。ただし、企業と大きく異なるのは、DMOが必ずしも「利益追求のみ」を目的としない点である。DMOは地域の広報・マーケティング部隊として、経済効果に加えて社会的・文化的・環境的な成果を生み出す存在である。
■ 投資回収をどこで測るか
では、DMOはどのようにして投資のリターンを説明すべきか。重要なのは、投資を受ける際に成果目標を明確に示し、それをクリアすることである。
短期的には、来訪者数や観光消費額といった直接的な指標で投資対効果を測ることができる。一方で、中長期的には地域ブランドの浸透や観光地経営の持続性といった、定性的な成果も重要である。
「株主」である会員に対しては、DMOとしての成長と進化を示すことが求められる。例えば、会員数の増加、会費収入の安定化、事業ポートフォリオの拡充などが成長の証となるだろう。こうした成長があって初めて、会員は「このDMOに投資し続ける価値がある」と判断できる。
同時に、DMOは地域の広報的な役割を担っているため、その成長はDMO内部の指標にとどまらず、地域全体の観光地としての知名度向上、誘客効果、観光消費額の増加といった成果に結び付けられる必要がある。会員である地域の観光関連事業者の期待は、まさにその点にあるだろう。
■ 数値化と検証可能性
投資とリターンを結び付けるためには、成果を数値として指し示すことが不可欠である。その際に留意すべきは、検証可能で恣意的要素を排除した数値であることだ。もっとも信頼性が高いのは公的な統計であり、観光庁の宿泊統計や入込統計などがその代表例である。
一方で、地域独自の調査であっても、調査設計を明確にし、誰が見ても再現性のある方法で集計されていれば十分に活用できる。重要なのは「恣意的に操作できない数値」を設定することであり、それこそが投資に対するリターンを明確に示す唯一の方法である。
■ 日本のDMOに必要な視点
現状、日本の多くのDMOでは、成果報告が形式的な事務作業にとどまっている。実施件数や来場者数を並べるだけでは、投資の意義を十分に伝えることはできない。本来必要なのは、短期的な投資とリターンの関係と、会員に対して示すDMOとしての成長、さらに地域全体への波及効果を、数値で裏づけて示すことである。
これにより、DMOは投資をしてくれる会員や行政に対して責任を果たすと同時に、観光客や地域住民に対しても「投資が地域の価値向上に還元されている」ことを明確に示すことができるだろう。
■ まとめ
DMOにおける「投資と成果の見える化」は、企業における投資回収の仕組みとは似て非なるものである。
・株主にあたる会員に対しては、DMOとしての成長を示すこと
・顧客にあたる観光客や住民に対しては、価値の提供と満足度の向上を示すこと
・成長の成果はDMO内部にとどまらず、地域全体の知名度、誘客効果、観光消費額の向上に結び付けること
・そのすべてを、検証可能で恣意性のない数値で裏づけること
このバランスを明確にすることで、DMOは信頼を得て、財源の循環を持続的に確保できるのである。
次回は、この成果の見える化をさらに広げていく「地域間連携と広域プロモーション」の役割について取り上げる予定である。
株式会社makes 代表取締役 後藤 直哉
