【第3回:後藤コラム】「形成的相互作用」が地域の未来をつくる
観光地経営の現場で「関係者を巻き込む」という言葉はよく使われる。しかし、単に多くの人を集めるだけでは、真の意味での合意形成や新しい価値は生まれない。本当に地域を動かすのは、関係者同士が互いに影響を与え合い、考え方や行動が変化していくプロセス——それが「形成的相互作用(Formative Interaction)」である。
■ 「形成的相互作用」とは何か
形成的相互作用とは、異なる立場や役割を持つ人々が相互に影響を与え合いながら、地域の方向性や価値観を共に形づくっていく過程を指す。これは「会議での意見交換」や「情報共有」といった一方通行型のやりとりではない。むしろ、そのやりとりを通して関係者が新しい視点を獲得し、自らの立場や考えを見直すような“相互変化”が起こる場である。
■ なぜ形成的相互作用が重要なのか
観光地経営の課題は単一の主体で解決できない。たとえば、
・宿泊業者は宿泊者数や単価を気にする
・飲食業者は来店客の回転率を重視する
・行政は法令順守と手続きについて責任を負う
・住民は暮らしやすさと観光の両立を求める
これらはしばしば利害が衝突するが、形成的相互作用の場では、それぞれの立場を尊重しつつ、共通する目的や解決策を探る。その結果、バラバラだったベクトルが揃い、地域全体としての推進力が生まれる。
■ 実例から学ぶ
1. 阿寒湖温泉の入湯税議論(出典:観光庁「事例集_持続可能な観光地域づくりのための事例集」)
入湯税かさ上げを巡る議論では、旅館組合、行政、観光協会が膝を突き合わせ、将来のビジョンと財源の使途を徹底的に話し合った。結果として、合意形成と同時に関係者同士の信頼関係が深まり、観光施策の実行スピードが向上した。
2. 工芸体験コンテンツ開発(出典:観光庁「事例集_地域の観光資源の磨き上げを通じた域内連携事例」)
複数の工房と観光事業者が共同で商品造成を行った事例では、当初は価格設定や運営負担を巡って意見が割れた。しかし、互いの事情を理解し合う中で持続可能なモデルが構築され、長期的な連携へとつながった。
■ 形成的相互作用を生み出す3つの条件
① 中立的なファシリテーター
利害関係に偏らない進行役が場を整えることで、安心して意見を出し合える。
② 共通のゴール設定
「何を達成するための話し合いか」が明確でないと、議論は空回りする。
③ 双方向の学び合い
一方的な説明会ではなく、参加者同士が質問し合い、知見を交換できる場づくりが必要。
■ 形成的相互作用がもたらす効果
・当事者意識の向上
関わった人が「自分の意見が反映された」と感じることで、施策へのコミットメントが高まる。
・新しい発想の創出
異分野の知見が交差することで、これまでなかった解決策が生まれる。
・持続可能な関係性資本の蓄積
一度築いた信頼と協力関係は、将来の新たな課題にも活かせる。
■ 「形成的相互作用」を日常に
形成的相互作用は、地域の内発性を支える土台である。観光地経営を単年度の事業で終わらせず、文化として根付かせるためには、この相互作用を日常的に生み出す仕組みが不可欠だ。
次回は、この形成的相互作用をどのように日常の観光地域経営に組み込むか、実践的なワークショップやファシリテーションの方法を紹介していく予定である。
株式会社makes 代表取締役 後藤 直哉
