【第6回:後藤コラム】「R-STP」で観光戦略を設計する

観光地経営を持続可能にするためには、単発のイベントや思いつきの施策では不十分だ。地域の未来を見据え、データに基づき、論理的なステップを踏んで戦略を設計する必要がある。その有効なフレームワークのひとつが「R-STP」である。
これは Research(調査) → Segmentation(市場細分化) → Targeting(ターゲット選定) → Positioning(価値の位置付け) という流れで構成され、マーケティングの基本であると同時に、地域経営に応用できる実践的な思考法でもある。


■ Step1:Research(調査)

戦略設計の出発点は「事実を把握すること」である。観光庁の入込統計や宿泊統計といったオープンデータを基盤に、地域独自の消費額アンケートや決済データ、GPSによる回遊調査といったクローズドデータを組み合わせることが不可欠だ。

特に重要なのは、オープンデータとクローズドデータを関連付けて分析できる調査設計である。たとえば「宿泊統計と地域での消費額アンケートを紐づける」ことで、単なる宿泊者数の増減ではなく、「滞在観光」と「地域消費」の関係性が明らかになる。入込統計とGPSデータを掛け合わせれば、「観光客数の増加」と「回遊範囲の広がり」といった関連性も見えてくる。

このような分析は、地域にとって「本当に解くべき課題」を浮かび上がらせる。たとえば、「訪問者数は増えているが、商店街の売上が伸びていない」といったギャップは、調査を精緻に設計しなければ気づけない。


■ Step2:Segmentation(市場細分化)

調査で得たデータを基に、観光客をいくつかのセグメントに分ける。年齢や国籍、性別といった基本属性だけでなく、滞在日数、消費額、訪問目的、交通手段、体験コンテンツの嗜好などを組み合わせることで、より精緻なセグメントが描き出される。

ここで重要なのは、単に「表面的な属性」で分けるのではなく、行動や価値観に基づいたセグメント設計を行うことだ。たとえば同じ「30代女性」でも、「友人と短期旅行に訪れる層」と「家族で連泊する層」では求める体験も消費行動もまったく異なる。

さらに、セグメントの粒度は「大きすぎても意味がなく、小さすぎても実務に乗らない」点に注意が必要だ。実際のプロジェクトでは、地域が重点的に取り組める3〜5程度の主要セグメントを設定することが現実的である。


■ Step3:Targeting(ターゲット選定)

セグメントを明確にしたら、その中で「どの層にリソースを集中するか」を決める。ここでの判断軸は大きく二つある。

・実現可能性:アクセス環境や受入体制、既存資源との親和性を踏まえて、短期的に成果が期待できるか。

・インパクト:その層が地域経済やブランド形成にどれだけ寄与する可能性があるか。

たとえば、短期的には台湾など近隣諸国からのリピーター層をターゲットに据えて安定的な需要を確保しつつ、中長期的には欧米豪の高付加価値層を育成して地域ブランドを磨いていく——といった「二段構え」の戦略も有効である。

ここで忘れてはならないのは、「誰もがターゲット」では結局誰にも響かないということだ。リソースが限られる以上、選択と集中こそが戦略の核心である。


■ Step4:Positioning(価値の位置付け)

ターゲットを選定したら、その層に対して地域をどのように位置付けるかを明確にする。これは、地域の強みを掘り起こし、他地域との差別化を打ち出すプロセスである。

・歴史的資源を活用したプレミアム滞在

・自然と文化を融合させた体験型観光

・食と工芸を掛け合わせた学びの旅

こうした価値提案を言語化することで、観光商品やプロモーションの方向性が定まり、ターゲットに訴求できる。さらに、ポジショニングは対外的なメッセージにとどまらず、地域内の関係者にとっても「私たちは何を強みにしていくのか」を共有する指針となる。


■ R-STPがもたらす効果

論理的な戦略設計:調査から始まり、順序立ててセグメント・ターゲット・ポジションを整理するため、施策が一貫する。

合意形成の容易化:データに基づく議論が可能になり、関係者の納得感が高まる。

資源配分の最適化:限られた予算や人材を、最も効果の大きいターゲットに集中できる。

ブランド形成の強化:ポジショニングを明確にすることで、地域独自のストーリーを内外に伝えられる。


■ まとめ

R-STPはマーケティングの基本フレームワークだが、地域経営においても強力に機能する。

1.Research:オープンデータとクローズドデータを関連付けた調査設計

2.Segmentation:行動・価値観に基づく精緻なセグメント設計

3.Targeting:実現可能性とインパクトの観点からターゲットを選定

4.Positioning:差別化要素を明確にした価値提案

この流れを踏むことで、観光戦略は理念や目標にとどまらず、具体的な実践へと転換できる。R-STPを地域の日常の思考に組み込むことが、持続可能な観光地経営を実現する鍵である。

次回は、こうした戦略を実行に移すうえで欠かせない「人材と組織づくり」について取り上げる予定である。

株式会社makes 代表取締役 後藤 直哉


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