【第5回:後藤コラム】「データと可視化」が観光地域経営を変える

観光地経営において、感覚や経験に頼るだけでは限界がある。来訪者数や消費額が増減する背景には、多様な要因が複雑に絡み合っており、直感だけで正しい打ち手を導き出すことは難しい。だからこそ、今の地域経営において鍵となるのが「データ」と「可視化」である。


■ データは“共通言語”になる
観光に関わる人々は、それぞれ異なる立場と目標を持っている。宿泊業者は稼働率や単価を重視し、飲食業者は客数や回転率を注視する。行政は法令順守や手続きを求められ、住民は暮らしとの調和を最も気にかける。こうした立場の違いを乗り越え、議論を建設的にするのが「データ」という共通言語である。

数字やグラフを前にすると、感覚的な意見の対立が整理され、事実に基づく合意形成が進む。経験や勘が軽んじられるのではなく、むしろデータが直感を補強し、意思決定の信頼性を高める役割を果たす。


■ オープンデータとクローズドデータの連携
地域経営において扱うデータは大きく二種類に分けられる。

〇オープンデータ:観光庁の入込統計や宿泊統計、訪日外国人消費動向調査など、誰もが利用できる全国的なデータ。地域を広域的に比較したり、長期的な傾向を確認する際に有効である。

〇クローズドデータ:地域独自のアンケート調査、決済データ、GPSによる回遊調査、観光事業者が持つ売上や利用履歴など。地域の実態や個別の課題を把握するのに欠かせない。

重要なのは、これらをばらばらに扱うのではなく関連付けて分析できる調査設計を行うことである。たとえば、宿泊統計と地域での消費額のアンケートを紐づければ、「泊まる観光」と「地域での消費」がどのように結びついているかが見える。入込統計とGPSデータを組み合わせれば、「観光客数の増加」と「回遊範囲の拡大」といった関係性を把握できる。こうした設計ができるかどうかで、データ活用の質は大きく変わる。


■ 可視化がもたらす“気づき”
データがあるだけでは不十分だ。重要なのは、関係者が一目で理解できる形に「可視化」することだ。

・ダッシュボードで宿泊者数や日帰り客数をリアルタイムに確認する

・来訪者の属性や行動をマップ上に表示し、地域内の回遊を見える化する

・消費額や決済手段の傾向をグラフ化し、販売戦略に反映する

こうした可視化は、数字を専門家だけのものにせず、誰もが共有できる“地域の鏡”となる。さらに、オープンデータと地域のクローズドデータを重ね合わせて可視化すれば、単一の数値からは見えなかった相関やギャップが浮かび上がる。そこから新しい気づきが生まれ、議論の質が格段に高まる。


■ ツール活用と弊社の取り組み
株式会社makesでも、地域の観光協会や事業者と共にデータの可視化を積極的に進めている。BIツールやダッシュボードを導入し、関係者が同じ画面を見ながら議論できる環境を整えることで、対話がスムーズになり、意思決定のスピードが上がる。

たとえば、宿泊統計をベースにしながら、地域で実施した消費額調査を組み合わせ、ダッシュボード上で可視化する。これにより、事業者は「宿泊者の数」だけでなく「宿泊者が地域でいくら消費したか」まで共有できるようになる。数字が目に見える形で示されることで納得感が増し、参加者の意識も変わる。まさにここで「形成的相互作用」が自然に発生するのである。


■ データと可視化がもたらす効果

〇透明性の確保:施策の成果や失敗が数字で明確になり、責任の所在も曖昧にならない。

〇合意形成の促進:異なる立場の人が共通の“地図”を見ながら議論できる。

〇持続可能性の向上:データが蓄積されることで、担当者が変わっても地域経営の知識が継承される。

戦略設計の精度向上:オープンデータとクローズドデータを関連付けることで、地域固有の課題と全国的な動向を結びつけた実効性ある戦略が描ける。


■ まとめ
データと可視化は、単なる管理ツールではなく、地域経営を前進させる“共創の土台”である。直感や経験を否定するものではなく、それらを裏づけ、対話を深めるための力となる。そして、オープンデータとクローズドデータを関連付けて調査設計することこそ、地域経営におけるデータ活用の成否を分ける分水嶺である。

観光地が持続的に成長するためには、この“見える化の文化”と“データ連携の仕組み”を日常に根づかせることが決定的に重要である。

次回は、データと対話をつなぐ「戦略設計のステップ」について取り上げる予定である。

株式会社makes 代表取締役 後藤 直哉

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