【第11回:後藤コラム】「ガバナンスの確立」が地域経営を支える

DMOの活動が軌道に乗り、地域との連携が進むにつれて、次に問われるのが「ガバナンス」である。ガバナンスとは、単に組織の管理体制を整えることではなく、地域全体を見渡しながら、公共的な視点と経営的な視点を両立させる仕組みを指す。これを確立できるかどうかが、DMOの持続可能性を左右する。


■ 自主財源と公益性のバランス

DMOは行政からの補助金や委託事業に依存して活動を始めるケースが多い。しかし、補助金だけに頼る運営では、活動が年度単位で断続的になり、地域の長期的な発展を支えるガバナンスを構築することは難しい。
一方で、収益性のみを追求すれば、公共性が失われ、地域からの信頼を損ねる恐れがある。重要なのは、一定の自主財源を確保しつつ、公益性を維持するバランスである。

DMOが本来担うべきは、地域全体の利益を最適化することだ。つまり、特定の事業者だけが得をする構造ではなく、地域全体が恩恵を受ける形で経済の循環をつくり出す。そのためには、収益を得る仕組みを持ちつつも、その利益を再び地域の発展や環境整備に還元する仕組みを明確にしておく必要がある。


■ 公益事業と収益事業の重ね合わせ

ガバナンスの観点から理想的なのは、公益事業と収益事業を戦略的に重ね合わせる設計である。
たとえば、地域の観光環境を整備する取り組みは明らかに公益的な活動である。しかし、その環境整備の上に、観光客が参加できる体験コンテンツやガイド事業、デジタルチケット販売などの収益事業を組み合わせることで、自主財源を確保することができる。

このように、公益性を軸に据えつつ、その周囲に収益構造を設計することで、DMOは外部資金に過度に依存せず、持続的な経営を実現できる。さらに、得られた収益を再び公益的な活動に投資することで、地域経営の循環を生み出すことが可能になる。


■ ガバナンスの透明性と説明責任

もう一つの重要な要素は、透明性である。自主財源を得るということは、地域や会員に対して説明責任を果たす必要があるということだ。
収益の使途や意思決定のプロセスを明確にし、定期的に公開することが信頼の基盤となる。ガバナンスの確立とは、組織の権限を強化することではなく、透明な運営によって地域の理解と協力を得ることにほかならない。

海外の先進的なDMOでは、理事会に行政・民間・学識経験者が参画し、公益性と収益性の両立を図る意思決定を行っている。日本においても、こうした多様なステークホルダーを含む運営体制の構築が求められている。


■ DMOに求められる次の段階

これまでのコラムで述べてきたように、DMOの活動は、データ活用、財源確保、地域間連携と段階的に進化してきた。これらを持続的に機能させるためには、最終的に「ガバナンス」という土台が不可欠である。

● 公益性を担保しながら、自主財源を確保する仕組みを持つこと

● 公益事業と収益事業を重ね合わせた設計を行うこと

● 透明性と説明責任を伴う意思決定を行うこと

これらを実現することこそが、DMOの「経営」と「公共性」の両立を可能にし、地域観光を長期的に支える鍵となるだろう。


■ まとめ

DMOのガバナンス確立において最も重要なのは、自主財源の確保と公益性のバランスである。
公益事業を通じて地域の基盤を整え、その上に収益事業を重ねて自主財源を生み出す。この構造を設計できるかどうかが、DMOの成熟度を決める分岐点である。

地域を支える公共的な存在でありながら、自立した経営体として機能する。その両立を可能にすることこそ、真の意味での「観光地経営」であり、これからのDMOの目指すべき姿ではないだろうか。

株式会社makes 代表取締役 後藤 直哉

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