【第7回:後藤コラム】「人材と組織づくり」が観光地経営の要となる

観光地経営において、いかに優れた戦略を描いても、それを実行する人材と組織がなければ前進はしない。逆に言えば、地域における人と組織の基盤づくりこそが、持続可能な観光地経営の最大の条件である。


■ 人材の多様性がもたらす力

観光地経営に必要な人材は、必ずしも観光業界出身者に限られない。データ分析に強い人材、マーケティングやPRに精通した人材、地域資源に詳しい住民、さらには異業種で培った知識やネットワークを持つ人材が関わることで、地域経営は厚みを増す。

特に近年注目されるのが 「越境人材」 の存在である。たとえば、IT企業でデータ活用に携わった人材が観光協会に参画すれば、地域のデータ分析やダッシュボード整備が一気に進む。あるいは金融業界出身者がDMOに加わることで、資金調達や事業計画の策定に新しい視点が加わる。異なる経験を持つ人が観光分野に加わることは、単なる「人手の補充」ではなく、地域の発想を広げ、既存の限界を突破する契機となる。


■ 組織のあり方:単独から連携へ

従来の観光協会や行政の枠内だけで戦略を進めるのでは限界がある。観光地経営は「一つの組織」ではなく、地域全体を一つの会社に見立てて運営する というイメージが求められる。

そのためには、行政・DMO・観光協会・事業者・住民が 緩やかに連携するプラットフォーム型の組織 を築くことが不可欠である。役割分担を明確にしながらも、情報はオープンに共有され、誰もが議論や意思決定に関与できる仕組みを整える。

さらに重要なのは、必ずしも「専従職員」を大量に抱えることだけが解ではないということだ。むしろ、フルタイムの職員、パートタイムの担い手、副業・兼業人材、ボランティアや市民活動といった多様なプレイヤーが柔軟に関われる環境を整えることが、人材育成の大きな土壌となる。

これは、役割や関わり方を固定化せず、個人の意志や強みを活かして自律的に貢献できる環境を重視する ティール組織理論 にも通じる。地域の中で「やりたいときに、やりたい形で関われる」仕組みをつくることこそ、観光経営を持続させる力を生み出す。


■ 育成と定着の仕組み

観光人材の育成は「研修で知識を学ばせる」だけでは不十分だ。むしろ 現場での実践を通じて経験を積み、その成果を地域に還元する循環 をつくることが重要である。

・外部研修や大学との連携でスキルを磨く

・OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)でプロジェクトを任せ、挑戦を促す

・成果や学びを地域全体に共有し、他の人材の参考にする

このサイクルを回すことで、人材は成長し、地域に根づく。さらに、育成だけでなく 定着 も欠かせない。やりがいのある役割分担、柔軟な働き方、成果が正しく評価される仕組みがなければ、人材は地域に留まらない。

ティール組織的な視点を導入すれば、組織の内外にいる多様な人材が「無理なく関わり続けられる」場が広がる。結果として、専従職員の人数に依存しない、持続可能な人材基盤が築かれる。


■ 弊社の実践から

株式会社makesでも、地域の観光協会や事業者と共に、外部人材の活用や組織体制づくりをサポートしてきた。SlackやTeamsなどのグループウェアを導入し、日常的に情報交換ができる「緩やかなネットワーク組織」を構築することで、組織の硬直化を防ぎ、柔軟な連携を実現している。

また、育成した人材が地域を離れても、ナレッジがオンライン上に蓄積される仕組みを整備することで、知識や経験が持続的に引き継がれるようにしている。これは「人に依存する組織」から「仕組みに支えられる組織」へと進化するための工夫である。


■ まとめ

観光地経営の実践を支えるのは「人」と「組織」である。

多様なバックグラウンドを持つ人材が集まることで、新しい発想とネットワークがもたらされる

・プラットフォーム型の組織が合意形成と実行力を高め、地域全体を一つの会社のように動かす

・専従職員に限定せず、多様なプレイヤーが関われる環境づくりこそが人材を育てる土壌となる

・ティール組織的な視点で役割や関わり方を柔軟にすることで、持続可能な人材基盤を築ける

・実践と学びの循環が人材を育み、働きやすい環境が人材を定着させる

戦略を描いた先に、「誰が、どのようにそれを実行するのか」という答えを用意できた地域こそが、持続可能な観光地経営を実現できる。人材と組織づくりは、単なる裏方の仕組みではなく、地域の未来を左右する最前線の課題なのである。

次回は、人材・組織と並ぶ観光経営の基盤である「財源の確保と循環」について取り上げる予定である。

株式会社makes 代表取締役 後藤 直哉

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